足は速いに越したことはない
サッカーにおける速さとは、単なる足の速さのことではありません。
ヨーイドンで走り出すスポーツではないので、次にどこへ行かなければならないかをいち早く察知する「判断の速さ」がきわめて重要になります。
とは言え、他の多くのスポーツ同様、サッカーにおいても足は遅いよりは速いほうが有利なことは間違いありません。
足の速さ=ストライド(歩幅)×ピッチ(足の回転数)
では、足を速くするにはどうしたらよいのでしょうか?
足の速さには遺伝的要素があることは間違いありませんが、足が速くなる方法を学び、適切なトレーニングを積むことによって、大きなスピードアップを実現することも十分可能です。
とくに小学生の場合は、正しい走り方を学んだ経験がない子供が大半ですので、その分伸びしろも大きく、わずか1〜2時間のトレーニングで飛躍的に速くなることも珍しくありません。
なお、足の速さを大ざっぱに二つの要素に分解するとこうなります。
足の速さ = ストライド(歩幅) × ピッチ(足の回転数)
つまり、足を速くしようとしたら二つの方法しかありません。
ストライド(歩幅)を大きくする
ピッチ(足の回転数)を多くする
速く走るコツは3つ
ピッチ(足の回転数)というのは、およそ1秒間に4.3回転ぐらいなんですが、これ実は小学生からウサイン・ボルトまでたいして変わらないんですね。
ですから、考え方としては「正しいフォームで走ることでピッチ(足の回転数)を落とさずにストライド(歩幅)をより大きくする」ということになります。
以上の点を踏まえた上で、速く走るためのコツは3つあります。
- 姿勢をまっすぐ起こして
- 脇を閉めて腕を大きく前後に振る
- ボールが大きく弾むイメージで
あごを引き、胸を開いて、上からひもで引っ張られているようなイメージで背筋をピンと伸ばすのが正しい姿勢です。
姿勢が曲がっていると、地面を蹴った時の反発力を体で吸収してしまいますのでストライド(歩幅)が伸びません。
また、まっすぐでも前傾姿勢だと膝を上げるのを抑えこむ形になってしまうので、これもストライド(歩幅)を小さくしてしまう原因になります。
なお、後述しますがスタートダッシュからの加速局面では、体を大きく傾けて前傾姿勢になる必要があります。
加速が済んで、一定のスピードを維持して走る等速局面では、体を前傾させず直立させた状態が望ましいです。
サッカー選手で言えば、クリスティアーノ・ロナウドがドリブルしている姿勢を思い浮かべると分かりやすいと思います。背筋がピンとまっすぐ立っていますよね。
姿勢が良いと、サッカーでは顔が上がって視野が広くなるというメリットもあります。
走ることは足を動かすだけでなく全身運動なので、腕を大きく振ることで体全体を動かす推進力になります。
子供によくあるのが、脇が大きく開いていたり腕を左右に振ったりするフォームですが、これでは前に進むパワーが違う方向へ分散されてしまいます。
脇を閉めて、腕を肩甲骨から動かすように前後にまっすぐ振るのが正しいフォームです。
腕の振りは払うように真後ろにしっかりと引き、上げる時はあごの高さまで大きく上げます。
また、肘は軽く90度くらいに曲げ、手のひらはギュッと握りしめないで、ゆでたまごをつぶさないように軽く握る感覚が理想的です。
足の遅い子の走りを見ると、地面をベタベタ踏んでいるような印象を受けることがありませんか?
一方、足の速い子は、ボールがポーンポーンと前に大きく弾むように軽快に進んでいるのではないでしょうか。
この弾む感覚で走るには、着地の瞬間に体がまっすぐな棒のようになっている必要があります。
その際に、腰や膝はほとんど曲げません。
足の遅い子の場合、膝が曲がっているケースが多いのですが、これでは車のショックサスペンションのように地面からの力を吸収してしまうので、ストライドが伸びなくなってしまいます。
また、股関節を大きく前後に開くことも大切です。そのためには太ももをしっかり高く上げるようにしましょう。
ただし、太ももを高く上げることに意識を向けすぎると、体を前に進めるはずの動きが上方向にズレてしまいます。
太ももを高く上げるのは、あくまでもストライドを大きくするためであることを忘れずに!
スタートダッシュは例外
以上3ポイントが速く走るコツですが、スタートダッシュは例外です。
スタートダッシュは体に加速力を与えることが目的なので、上記3ポイントは当てはまりません。
スタート時には、転ぶ寸前まで前足に重心をかけて前傾姿勢で走りだしますが、一歩一歩グイグイ踏みしめて加速していきますので歩幅は小さく小刻みです。
スピードに乗ってきたら徐々に歩幅を広げていき、直立姿勢に移行していきます。
また、腕の振りもスタートダッシュ時にはまっすぐ前後ではなく、スピードスケート選手のように斜め後ろへ振り下ろすような形の方が推進力が出るでしょう。
筋トレ・体幹・柔軟は小学生には不要!
ところで、「足が速くなる方法」で検索すると、筋トレや体幹トレーニング、柔軟運動をすすめているサイトがあまりにも多くて驚かされます。
それも、小学生のトレーニングにです。
中学生以降ならまだ分かりますが、小学生ならもっと優先順位が高くて効果的なトレーニングがあります。
間違った情報に踊らされないよう注意してください!。
筋トレや体幹を小学生におすすめしない理由
小学生の場合、筋トレや体幹トレーニングはやり方を間違えると、かえって足が遅くなる可能性もあります。
速く走るために必要なのは、力を入れることよりもむしろ「いかに力を抜くか」、脱力の方がはるかに重要です。
ところが、筋トレや体幹トレーニングを誤った知識で行うことで、必要以上に力んだ走り方になってしまったり、特定の部位が重くなることで、かえってタイムが落ちるかもしれません。
たとえば、為末大さんの著書「走りの極意」には筋肉量の増大がスピードに役立たなかったとの記述があります。
だが、いくら筋肉がついても、足は速くならなかったのだ。問題は筋肉のついた部位だったと思う。私の場合、ウェイトトレーニングによって、腕と脚の筋肉も太くなっていったのだが、それは速く走るのには役立ってくれなかった。なぜなら、余分な筋肉で腕や脚が重くなってしまうと、それを素早く振り回すことができないからだ。特に私のようにふくらはぎの筋肉が大きくなると、脚を後ろから前に引き出すのが遅くなってしまう。脚が重くなることで、速く回転することができなくなってしまったのだ。
ウェイトトレーニングをすることで、足を遅くしていたといっても決して言いすぎではないと思う。
このように、トップアスリートでさえやり方を間違えると逆効果になってしまいます。
小学生の場合は、正しいフォームを身につけることを第一に心がけてください。
もちろんまったく効果がないわけではありませんが、小学生の足を速くするのであれば、筋トレや体幹の優先順位はかなり低いです。
ハッキリ言って、腕立て伏せやスクワットなんて必要ありません。
まず、腕立て伏せはおもに大胸筋を鍛えるものですが、腕振りに必要な筋肉はむしろ背中側の広背筋の方です。
なぜなら、腕振りは腕を前に押し出すよりも、後ろに引くことで体全体に推進力を与えるものだからです。
これは押す筋肉である大胸筋より、引く筋肉である広背筋の役割といえるでしょう。
また、そもそもスクワットはモモの前側の筋肉(大腿四頭筋)をメインに鍛えるものです。
実際にやってみれば分かりますが、普段スクワットをやっていない人がやると、翌日にはモモの前側がパンパンに張っているはずです。
でも、この筋肉っておもにストップの際に使う筋肉なんですよね。
走る際にパワーの原動力になるのは、むしろモモの裏側の筋肉(ハムストリングス)の方ですよ。
他には腸腰筋も足の速さに大きく関わっていますね。
腸腰筋は腹部のインナーマッスルです。
腸腰筋は股関節屈曲において、もっとも強く働く筋肉で、もも上げのように足を引き上げる動きに関わっています。
また、骨盤を前傾させる筋肉でもあることから、速く走るために必要な姿勢の維持に大きく影響します。
ですから、腕立て伏せやスクワットをやるくらいなら腹筋を鍛えるべきです。
ただこれも、小学生なら腹筋運動だけを切り取ってやるのではなく、走りに直結したトレーニングの中で鍛えた方がはるかに効果的です。
また、体幹も走りのトレーニングを通して、走りの速さに直結する体幹力を鍛えることができます。
小学生のうちはそれだけでも十分でしょう。
たとえばこのようなトレーニングです。
正しい走りのフォームを身につけると同時に体幹も鍛えられます。
本格的に体幹トレーニングに取り組むのは、中学生以降でも決して遅くありません。
もし、どうしても足が速くなるための体幹力を鍛えたいのであれば、こちらの書籍がおすすめです。
サッカー日本代表・岡崎慎司選手の専属コーチである杉本龍勇さんによる体幹トレーニングの書籍です。
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杉本龍勇さんがアドバイザーを務めているSCDスポーツクラブにて、実際に子供たちに指導して成果を挙げている内容なので、信頼性の高いトレーニングといえるでしょう。
柔軟運動もそれだけで速くなるわけではない
速く走るうえで柔軟性はとても重要です。
とくに股関節を前後に大きく広げる柔軟性があると、それだけで歩幅が大きくなります。
ただ、これも筋トレや体幹トレ同様、柔軟運動だけを切り取って単独でやるよりも、走りのトレーニングとして行うことをおすすめします。
たとえば、このようなトレーニングならストライドを広げる柔軟性が身につくでしょう。
私が以前指導した男の子は小学生時代は6年間ずっとリレー選手に選ばれるほどの足の速さでしたが、股関節は異常に固かったです。
一方、その妹は股割りもできるくらい非常に体が柔らかかったのですが、足はかなり遅かったですね。(その分、指導のしがいはありましたが)
なぜかというと、どんなに股関節が柔らかくても、実際に走るとほとんど足を広げないからです。
ようするに、いくら柔軟性を高めても、正しいフォームで走らなければまったく意味がないんですね。
走りに直結しなければ筋トレも体幹も柔軟も意味なし!
けっきょくのところ、筋トレも体幹も柔軟も走りそのものに活かされなければ、いくらトレーニングしても意味がありません。
ですから、まずは正しい走りのフォームを身につけるためのトレーニングが最優先なわけです。
小学生ならなおさらでしょう。
筋力も柔軟性も、それ単独でトレーニングするのではなく、走りのトレーニングの中で自然と養われるようなスタイルが理想的です。
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